なぜ今、チームチャーター(チーム憲章)なのか?:原理原則を現場で動かす方法
これまでの記事では、「テイラーリングの進化」「プロジェクト憲章の変遷」「心理的安全性とマネジメントの原理原則」という3つのテーマを通じて、 PMBOK第7版が提唱する原理原則ベースのマネジメント”考え方を整理してきました。 本記事ではその集大成として、原理原則をチームレベルで実装するための実務ツール=チームチャーターを解説します。
「目的(Why)」を定義したのがプロジェクト憲章なら、チームチャーターは「どう行動するか(How)」を明文化する文化設計書です。
チームチャーターとは何か(PMBOK第7版の定義)
PMBOK第7版ではチームチャーターを次のように定義しています。
A document that records the team’s values, agreements, and operating guidelines.
(チームの価値観、合意事項、および運営方針を記録する文書)
つまり、チームチャーターは「チームとしての行動原則」をまとめたドキュメントであり、 メンバーの意思決定・対話・責任を支える行動の憲章です。 プロジェクト憲章が経営層やスポンサー向けであるのに対し、チームチャーターはメンバー間の信頼を醸成し、 チーム内文化を明確にする目的を持ちます。
原理原則をチームレベルに落とすための設計思想
PMBOK第7版の12原則のうち、チームチャーターに特に関係するのが以下の3つです。
- 価値にフォーカスする(Focus on Value):すべての判断を価値提供に基づいて行う。
- チーム(Team):心理的安全性・信頼・誠実さに基づいた協働を行う。
- ステークホルダーの関与(Stakeholder Engagement):オープンで尊重ある対話を維持する。
つまり、チームチャーターを設計するということは、価値にフォーカスしながら、原則を共創することです。 会社のMVVや上位戦略と整合しつつ、チーム自身が「このプロジェクトでは何を大切にするのか?」を決めていきます。
チームチャーターの基本構造(実例)
以下は筆者が実際にPMBOK第7版の思想をもとに再構成したチームチャーターテンプレートの例です。1枚で完結する実務フォーマットで、プロジェクト立ち上げ時のワークショップなどで利用できます。
これは私がPMBOK第7版を解釈し作成した雛形ですので、これが正解というわけではなく、組織の価値観、管理方法によって変わってきますので、このサンプルをもとに職場、プロジェクトに合わせてテーラリングされるのが良いと思います。
チームチャーター雛形

ダウンロードはこちら:
テンプレートの構成:
- Project Overview: プロジェクトの基本情報、目的、目標。
- Purpose: チームの存在意義。誰に、どのような価値を提供するか。
- Values & Principles: 尊重、透明性、挑戦、学習などの原理原則。
- Working Agreements: 意思決定、コミュニケーション、コスト、スケジュール、変更、リスクの考え方。
- Note: 会社のMVV(Mission, Vision, Value)・行動指針との整合性を記載。
- Document Control: 改訂履歴とレビュー日。
注記として、NOTE欄に次のような文を添えると企業文化との整合性が保てます。
※本チームチャーターは、当社の企業理念「顧客中心の価値創出」と 行動指針「Respect for Individual」に基づき策定されたものである。 ※チームは、相互尊重と率直な対話を通じて心理的安全性を維持することを約束する。
プロジェクト概要で売上、利益率の欄など、社内でも事業部外にあまり知られたくない項目については、なくても構わないと思います。プロジェクト情報は、社内ポリシーに従ってカスタマイズすることをお薦めします。
作り方プロセス:ワークショップ形式での共創
チームチャーターは、マネージャーがひとりで作るものではありません。メンバー全員で共創することが重要です。
- 準備: PMが初期版のたたき台を作成(ValuesとWorking Agreementsの枠だけ)
- ワークショップ: チーム全員で1~2時間の対話。各項目に意見を書き出す。
- 合意形成: 重要な原則を3~5個に絞り込み、全員で合意。
- 署名: 最終版をチーム全員が確認し、リーダー/PMが署名して運用開始。
このプロセス自体が心理的安全性を生み出す対話の場になります。
この話し合いで重要なのが、プロジェクトの成功を信じ、顧客の価値を実現するため、組織の目標を達成するためにはどのように行動しなければならないのか?ということ参加者全員が考えていなければなりません。
「似たようなプロジェクトを前にやったから、同じでいいよね。」という発想ではなく、「似たようなプロジェクトでは、こういう反省点(Lessons & Learns)」があったので、今回はこういう風に変えようなど、「フィードバックをもとに進化する」という原則に基づいて検討するべきです。
また、事前にプロジェクトの内容、目標、リスクなどの情報をチーム内で共有しておく必要があります。チーム内で情報の偏りがあると、同じ方向性を持つ障壁になりやすいです。
心理的安全性をチャーターで担保する仕掛け
Amy Edmondson(ハーバード大学)は、心理的安全性を「率直さと尊重が共存する状態」と定義しています。 チームチャーターはその実装手段として機能します。
| 原則 | 実装例 |
|---|---|
| Respect(尊重) | 意見が異なっても一度受け止める。発言を遮らない。 |
| Transparency(透明性) | 進捗・課題・判断根拠を隠さず共有する。 |
| Candor(率直さ) | 意見は「仮説として話します」と伝えて安全に反論できる文化をつくる。 |
メンバーの過去の行動や発言を追求する場ではありません。「プロジェクトが成功するには?」という共通の目標を持っていれば、そのような議論にはならないはずです。
クリエイティブな発想、イノベーションは心理的安全性の下に生み出されるものです。
実装・メンテナンス:チャーターを“生きた原理”から文化へ
チームチャーターは一度作って終わりではありません。定期的な振り返りによって生きた原理に保つ必要があります。
- 月次レビュー: チームミーティングの最後5分で「今日の議論は原則に沿っていたか?」を確認。
- 改訂履歴を残す: Document Control欄にRev・日付・変更理由・Next Reviewを記入。
- 成功事例の共有: 原則がうまく働いた事例を定例会で共有。
この継続的レビューが、原理原則の「末法化(形骸化)」を防ぐ最も効果的な仕組みです。
日々の忙しい業務の中で、つい優先度が低くなりがちなものだと思います。そうならないためにも、日々の業務の中で、このチーム憲章があるから自分が正しく判断できている、自信をもって業務に向き合えるという実感をプロジェクトマネージャーはメンバーに感じさせる必要があります。
そのためには、プロジェクトマネージャーが率先して、チーム憲章の原理原則を判断のポイントとして、引き合いに出してメンバーに説明するなど、工夫が必要です。
そうした細かい振る舞いが、チーム憲章をチームの文化まで昇華させることができると考えます。
まとめ
チームチャーターは、単なる文書ではなく、チーム文化を設計し、信頼を醸成する「原理の実装書」です。 PMBOK第7版の原則に基づき、価値にフォーカスし、共創し、継続的に改善していくことが重要です。 プロジェクト憲章(Why)とチームチャーター(How)が一体となることで、 組織は真に原理で動くチームへと進化します。
参考・出典
- Project Management Institute (2021). PMBOK® Guide – Seventh Edition
- PMIstandards+ “Team Charter Overview”
- Amy C. Edmondson, The Fearless Organization, 2019
※本記事にはプロモーションが含まれています。

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