検収の遅延はプロジェクトを破壊する──期末・会計・商習慣から見る PM が絶対に避けるべきリスク

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序文

検収はプロジェクトのゴールであり、企業の売上・利益を確定させる最重要プロセスです。しかし現場では、検収を“納品の延長”くらいに捉えるケースが多く、その結果として重大な財務インパクトや契約トラブルが発生します。本記事では、期末会計、商習慣、契約、そして海外で重視される 見なし検収(Deemed Acceptance) の観点から、プロジェクトマネージャー(PM) が必ず理解すべき検収リスクを整理します。

検収が遅れるとプロジェクトは「事実上の失敗」になる

検収遅延によって発生する影響は、単なるスケジュール遅延ではありません。

  • 売上が計上できない
  • 契約がクローズできない
  • 支払いが発生しない
  • 瑕疵責任が開始されないため品質責任が宙づり
  • 経営層への説明が必要になる

検収は企業にとって 財務イベント であり、遅延はプロジェクト以上に会社全体へ波及するリスクを持ちます。

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期末検収が特に危険である理由

期末になると、検収遅延のリスクは急激に高まります。

  • 経理の締切が月末より早い(例:3月25日まで検収書を提出することなど)
  • 顧客側の承認フローが混雑する
  • 稟議の決裁者が不在になりやすい
  • 役員会議のスケジュールと重なる
  • 月末ギリギリでは検収印が取れない

これが1日でも遅れると、売上が翌期へ飛び、実質月の決算期へ売上がシフトしてしまう事態が発生します。これにより、

  • 決算への影響
  • 会社の業績予測の下方修正
  • 株価の変動
  • 経営層の重いプレッシャー

といった実質的な“経営インパクト”に直結します。

PMは「3月末までに検収」という曖昧な合意ではなく、
「いつまでに検収書が受領できるのか?」
まで具体的に管理しなければなりません。


検収遅延の原因は現場の問題ではなく“構造”にある

多くのPMは「頑張れば検収が取れる」と考えがちですが、実際には構造的な問題で遅延します。

  • 顧客の内部稟議が複雑
  • 検収権限者が誰か不明
  • 営業部門が契約段階で検収条件を曖昧にしている
  • 顧客側の紙文化で承認が遅れる
  • 社内経理締切日がPMに共有されていない
  • 「月末検収」という雑な合意

こうした構造を理解しないと、PMは正しいリスク管理ができません。


日本固有の商習慣にも注意が必要

日本企業には、契約よりも関係性・慣例を重視する文化があります。

  • 口頭での「OK」が承認と扱われる
  • FAX・メールでの「みなし承認(Deemed Acceptance)」が慣例化
  • 暗黙の了解がまかり通る
  • エビデンスより信頼関係が優先される

これは国内では機能する一方、国際標準とは大きく異なります。

Deemed Acceptance(みなし検収)の誤解が重大トラブルを生む

Deemed Acceptanceとは

Deemed Acceptance(みなし検収)とは、
「一定期間顧客から指摘がなければ検収完了とみなす」という契約条項です。

例:

  • 納品から10日以内に指摘がなければ承認
  • バグ報告がなければ自動承認

日本では比較的受け入れられる運用ですが、これはあくまで国内商習慣でしかありません。

海外企業では Deemed Acceptance が機能しない場合がある

特に米国・欧州企業は、次の理由で Deemed Acceptance を無効と扱うことが多いです。

  • GAAP / IFRS による厳格な監査基準
  • サイレント承認は内部統制違反
  • 書面承認がないと売上計上できない
  • 後から品質問題が発生した際の責任範囲が不明

つまり、
正式なサインがない限り検収は完了していない
というのが海外では一般的です。

日本の感覚のまま海外案件を進めると、

  • 売上が永遠に計上できない
  • 支払いが始まらない
  • プロジェクトがクローズしない
  • バグ対応が無期限に続く

といった重大トラブルになります。

Deemed Acceptance を使うときの注意点

  1. 顧客のファイナンスルールを必ず確認する
  2. 検収承認の“正式な形”を契約に明記する
  3. 対応可能な承認方法(サイン・メール・システム承認)を定義する
  4. 国内商習慣を前提に考えない
  5. 海外案件は必ず明確な検収書をとるプロセスを設計する

Deemed Acceptance は便利に見えますが、
使い方を間違えるとプロジェクトを破壊するリスクがあります。

PMが実践すべき「検収リスクを減らす方法」

  • 検収基準・合否条件をプロジェクト開始時に文書化
  • 顧客の承認フロー(稟議日数・決裁者)を把握
  • 検収日は“日付で”合意、月末の曖昧表現は避ける
  • 検収フローをWBSに組み込み、工程として管理
  • 問題発生時の判断基準を“検収影響”に統一
  • 暫定対応で工程を止めない思考を持つ
  • 営業と“検収ゴール”を共有し、条件と工程を一体で管理する

こうした行動が、検収遅延による致命的なリスクを防ぎます。

まとめ ─ 検収を守れないPMはプロジェクトを守れない

検収は成果物の承認ではなく、企業の財務と信頼を確定させる最終プロセスです。
期末の締切、商習慣、契約文化、Deemed Acceptance の違いを理解していなければ、PMは重大な判断ミスを犯すことになります。

その差は、知識ではなくビジネスの構造を理解した実践力にあります。

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