PMBOK第8版の6原則とは何か?──プロジェクトマネージャの判断を変える行動哲学

猫の顔を持つビジネスマン PMBOK8th_6つの原則
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目次

はじめに

PMBOK®ガイド第8版を手に取って、まず目に入るのは全体構成の変化です。
添付の図をご覧いただくと分かるとおり、第7版と第8版では、単なる章立ての違い以上のものが起きています。

第7版では、「原則」「パフォーマンスドメイン」「プロセス(Practice Guide)」が、やや分離した構造をとっていました。
これは「原則ベース」という大きな方向転換の結果でもあり、PMBOKを「知識体系」から、現場における思考・判断の指針へと変化させる一歩だったといえるでしょう。

実務の現場で私としての感想は、「考え方は分かるが、どう判断すればいいのか分かりにくい」「原則が多く、結局どこに立ち返ればよいのか迷う」というのが第7版の印象ですが、

第8版では、こうしたポイントから一歩踏み込んで、より現場のプロジェクト・マネジャーに寄り添った仕上がりになっているのではないでしょうか。


構成を見ると明らかなように、

PMBOK®ガイド第8版P258より引用

  • System for Value Delivery を中核に据えたまま
  • 原則を 12から6へと再編
  • さらに プロセス・ドメイン・ツール群を再統合

という形で、PMBOK全体が「一本の思想」に再整理されています。

特に注目すべきなのが、6つの原則の再定義です。これは単なる削減や簡略化ではありません。
むしろ、「プロジェクトにおいて何を拠り所に判断するのか」というPMの行動哲学を、より明確にした結果だと捉えるべきでしょう。

第7版における12の原則の考え方は、とても共感できるものですが、12もの原則を常に頭なの中で思考を張り巡らせて、判断をするのはあまり現実的ではないと思います。

本記事では、第8版で整理された6つの原則に焦点を当て、

  • それぞれが何を意味しているのか
  • 第7版のどの思想を引き継ぎ、どこを統合したのか
  • そして現場では、どのように「使う」べきものなのか

を順に整理していきます。

PMBOK第8版は、「新しいフレームワーク」を提示したのではありません。
プロジェクトマネジメントという仕事における、考え方の拠り所に焦点を絞ったものだといえるでしょう。
本稿では、その内容について掘り下げていきます。


※2025年12月現在では、PMBOK(R)第8版の日本語版はリリースされておりませんので、日本語版が出てきたときに用語の翻訳、解釈などの微妙なズレがあるかも知れませんが、あらかじめご了承ください。

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PMBOK®第8版における「原則」の基本コンセプト

第8版は何を「整理」しようとしたのか

PMBOK®ガイド第8版は、第7版で打ち出された原則ベース路線を否定していません。
むしろ、その方向性は明確に維持されています。

では、なぜ第8版では、あらためて「再構成」が必要だったのでしょうか。

第7版の12の原則は、それぞれが妥当で、現代のプロジェクト環境に即した考え方でした。
一方で、実務の現場で意思決定を迫られる場面においては、

「原則が多すぎる」こと自体が、判断を難しくしていた側面も否めません。

プロジェクト・マネジャーは、限られた時間の中で、

  • 情報が不完全な状態で
  • 利害の異なる関係者の間に立ち
  • 正解が一つではない問いに答える

という判断を日常的に求められます。

そのときに必要なのは、「すべての原則を思い出すこと」ではなく、
どこにフォーカスして考えるべきかを即座に定めることが求められます。

第8版が行ったのは、原則の思想を捨てることではなく、
原則の考え方を残しつつ、減らすことで、思考・判断の軸をシンプル化することで、より現場のPMに寄り添った整理と考えられます。

マインドセットとしての原則

第8版における原則の位置づけを理解するうえで重要なのは、原則が「守るべきルール」ではない、という点です。

原則は、手順でも、チェックリストでもありません。判断を下す前提となる「考え方の基礎」と捉えられます。

プロセス、ツール、テンプレートは、あくまで「使い方」の話です。
一方、原則は、

  • 何を優先すべきか
  • 何を犠牲にしてよいのか
  • 迷ったとき、どこに立ち返るのか

といった、意思決定の方向性そのものが定められています。

第7版でも原則は重要な位置づけにありましたが、第8版ではそれがさらに明確になり、
プロセスやツールよりも上位にあるものとして整理されています。

言い換えれば、第8版は「PMはどのような考え方で日々のプロジェクトの業務で判断しているか?」という「心がけ」の部分が重要であることを示しています。

この点は、
「心がけが変われば、行動が変わり、習慣が変わり、人格が変わる」
と説いたスティーブン・コヴィーの『7つの習慣』にも通じる、原理原則主義的なコンセプトとして読み解くことができます。

3つのマインドセット次元(Proactive / Ownership / Value-driven)

第8版では、原則が単に列挙されるのではなく、3つのマインドセット次元に束ねられています。

  • Proactive(主体的・先回りの思考)
  • Ownership(当事者意識と責任)
  • Value-driven(価値を中心に据えた判断)

この整理は、偶然ではありません。

プロジェクトにおける多くの問題は、
「やり方が間違っていた」よりも、「どう考えたか」「どこを見て判断したか」に起因します。

  • 目の前の作業に追われ、全体を見失う
  • 誰の責任かが曖昧なまま意思決定が遅れる
  • 成果物は完成したが、価値が生まれていない

こうした状況を生む背景には、思考の偏りがあります。

第8版では、原則をこの3次元に整理することで、プロジェクト・マネジャーの思考の重心を明確に示しています。

  • 先を見て動けているか(Proactive)
  • 自分事として引き受けているか(Ownership)
  • 価値を基準に判断しているか(Value-driven)

6つの原則は、これら3つの次元を具体化したものにほかなりません。

プロジェクト管理のマインドセット

6つの原則は、どのように関係しているのか

PMBOK第8版で整理された6つの原則は、それぞれ独立したチェック項目ではありません。

また、「状況に応じてどれかを選ぶ原則」でもありません。

これら6つの原則は、相互に支え合いながら、PMの判断と行動を成立させる一つの構造として設計されています。

6原則は「同列」ではない

私の解釈では、6つの原則は単なる横並びではないという解釈です。

たとえば、

  • 全体を俯瞰しようとしても
  • 価値に集中しようとしても

それを考え、判断し、行動する人が機能していなければ、原則は実践されません。

この意味で、第6原則であるBuild an Empowered Culture は、それまでの5つの原則を実行可能にするための土台として位置づけられています。

5つの原則と「文化」の関係

PMBOK第8版の6原則うち最初の5つを並べてみると、次のようになります。

  • 全体を俯瞰する(Adopt a Holistic View)
  • 価値に集中する(Focus on Value)
  • 品質を組み込む(Embed Quality)
  • 責任を引き受ける(Be an Accountable Leader)
  • 持続性を考える(Integrate Sustainability)

これらはいずれも、

  • 考える力
  • 判断する力
  • 引き受ける姿勢

をPMやチームに要求します。

しかし現実には、

  • 意見を言えない
  • 判断を避ける
  • 失敗を恐れる
  • 決定が曖昧になる

といった文化の中では、これらの原則は機能しません

だからこそ第8版は、最後に Build an Empowered Culture を置き、

「原則が機能する前提条件」そのものを、原則として明示
したのだと読み解くことができます。

原則は「人の振る舞い」を前提としている

6つの原則を貫いている共通点は、すべてが「人の振る舞い」を前提にしているという点です。

  • 俯瞰するかどうか
  • 価値を基準に考えるかどうか
  • 品質を最初から考えるかどうか
  • 判断を引き受けるかどうか
  • 将来を見据えるかどうか

これらは、プロセスやツールが自動的にやってくれるものではありません。

人が、どう考え、どう振る舞うかその積み重ねによってのみ、成立します。

「文化」がなければ、原則は形骸化する

文化が整っていなければ、原則は次のように扱われてしまいます。

  • スローガンとして掲げられるだけ
  • レビュー資料に書かれるだけ
  • 研修で聞いて終わるだけ

つまり、「きれいな言葉」にとどまってしまうのです。

PMBOK第8版が示しているのは、原則を守ることではありません。

原則が自然に実践される状態を、どう作るかという問いです。

その答えが、Empowered Culture にあります。

この章の位置づけ

本章で整理した6原則の関係性を前提として、以降の章では、

  • 各原則が
  • どのような判断をPMに求めているのか
  • 現場では、どの場面で使われるのか

を、1原則ずつ掘り下げていきます。

6つの原則は、PMBOK第8版が提示した行動哲学の全体像と考えられます。

個別の原則を読む前に、まずこの「構造」を押さえておくことで、それぞれの原則の意味が、より具体的に見えてくるはずです。

原則① Adopt a Holistic View ― 全体を見るとは、どういうことか

この原則が示していること

Adopt a Holistic View(全体を俯瞰して捉える)
これは一見すると、プロジェクトマネジメントでは当たり前のことを言っているように見えます。

「部分最適ではなく全体最適を考えましょう」
「木ではなく森を見ましょう」

こうした表現は、多くの人が理解している内容だと思います。

しかし、PMBOK第8版がこの原則を最初の原則として掲げている点には、明確な意図があります。
それは、プロジェクトにおける多くの問題が、スキル不足ではなく視野の欠如から生じていることが多いということです。

第7版のどの思想を引き継いでいるのか

第7版では、以下の原則・概念が提示されていました。

  • Systems Thinking(システム思考)
  • Stakeholders(ステークホルダー)
  • Value(価値)
  • Complexity(複雑性)

これらはそれぞれ重要でしたが、現場では個別の観点としてバラバラに理解されがちでした。

第8版の Adopt a Holistic View は、これらをまとめることを担っています。

  • システムとしてプロジェクトを見る
  • ステークホルダーの相互関係を見る
  • 価値の連鎖を見る
  • 複雑さを前提として捉える

つまりこの原則は、「プロジェクトを大きな一枚の絵として捉える視点」をPMに要求しています。

「全体を見る」とは、何をすることなのか

ここで注意したいのは、
Holistic View が「すべてを細かく把握すること」ではない、という点です。

むしろ逆です。

  • どこが重要で
  • どこが重要でないか
  • どの関係性が結果に影響を与えるか

を見極めるための視点が、Holistic View です。

現場ではよく、

  • スケジュールは守られている
  • コストも予算内
  • 成果物も完成している

にもかかわらず、「プロジェクトとして失敗した」と評価されるケースがあります。

その多くは、

  • 組織戦略との不整合
  • ステークホルダー間の分断
  • 価値の出るタイミングのズレ

といった、全体構造の見落としに起因しています。

Holistic View が問う「PMの役割」

この原則が示しているのは、
PMは「タスク管理者」ではない、というメッセージです。

PMに求められているのは、

  • 個々の作業を追いかけることではなく、目標との整合性を最適化する
  • 作業同士の関係性を理解しコラボレーションを促進する
  • その関係が生む結果を予測し混乱を最小限にする

です。

言い換えれば、
PMは必ずしも最適解を出す人ではなく、「プロジェクト全体の構造と価値を生み出す仕組みを理解して人である」、ということが求められます。

現場でこの原則をどう使うか

Adopt a Holistic View は、日常の判断の中で使う原則です。

たとえば、

  • 変更要求が出たとき
  • 誰かの要望が強くなったとき
  • トラブル対応に追われているとき

こうした場面で、

「これは全体構造の中で、どこに影響するのか」
「今、見えていないステークホルダーはいないか」
「この判断は、価値の流れをどう変えるか」

と立ち止まれるかどうか。

この一歩引いた視点こそが、Holistic View の実践ではないかと思います。

原則①のまとめ

Adopt a Holistic View は、
単純に「広く見ること」ではなく、プロジェクトの構成要素の「関係性を見る」ことを求めている原則であると言えます。

この視点がなければ、どれほど優れたプロセスやツールを使っても、プロジェクトは簡単に部分最適に陥ります。

承知しました。
以下に 第二の原則「Focus on Value」 を、これまでの章と同じ思想レベル・文体でドラフトします。
(※成果物論に流れず、「判断の軸」としての価値に焦点を当てています)

原則② Focus on Value ― 成果物ではなく、価値を見よ

この原則が示していること

Focus on Value(価値に焦点を当てる)
この原則は、PMBOK第8版を象徴する考え方のひとつです。

プロジェクトマネジメントというと、どうしても

  • 何を作るのか
  • いつまでに終わらせるのか
  • いくらで実現するのか

といった「管理対象」に目が向きがちです。

しかし第8版は、「それは、どんな価値を生み出すのか?」と言う部分に焦点を当てるべきと解説しています。

第7版のどの思想を引き継いでいるのか

第7版でも、「Value」という言葉は重要な位置を占めていました。
また、

  • Value Delivery
  • Stakeholder Value
  • Outcomes over Outputs

といった考え方も提示されていました。

ただし、これらは個別の文脈で語られることが多く、現場では「分かってはいるが、判断に使えていない」状態になりがちでした。

第8版の Focus on Value は、それらを一段引き上げ、価値を評価項目ではなく、「判断基準」、「プロジェクトの結果の一つ」というように据えています。

つまり、

価値は、最後に測るものではなく、常に意識して、最初から考え続けるもの

という位置づけになったと思います。

「価値」とは何か

ここでいう価値は、単なる金銭的リターン・利益に限りません。

  • ビジネス上の成果
  • 組織としての学習
  • 利用者の行動変化
  • 社会的・長期的な意味

など、文脈によって定義されるものです。

重要なのは、
「価値は成果物そのものを示すものではない」
という前提です。

たとえば、

  • システムは完成したが、使われていない
  • マニュアルは整ったが、現場は変わっていない・使っていない
  • 納期は守ったが、事業には寄与していない

こうしたプロジェクトは、「成功」でしょうか。請け負った側は、業務が終了して「対価」が得られれば、利益が得られるので、今までは「成功」という分類になっていたと思います。

しかながら、PMBOK第8版では、価値が生まれていなければ、そのプロジェクトは成功とは言えないということを語っています。

Focus on Value がPMに突きつける問い

この原則は、PMに対して厳しい問いを投げかけます。

  • このプロジェクトは、誰にとっての価値か
  • その価値は、いつ・どのように実現されるのか
  • 今の判断は、その価値を高めているか、削っているか

これらは、プロジェクト開始時だけでなく、変更・トラブル・意思決定のたびに問われるべき問いです。

特に重要なのは、「成果物が増えること=価値が増えること」ではない、という点です。

スコープ追加や要件増加が、むしろ価値を下げているケースも少なくありません。

現場でこの原則をどう使うか

Focus on Value は、非常に実践的な原則です。

たとえば、

  • 変更要求が出たとき
  • 仕様の優先順位を決めるとき
  • リスク対応で妥協点を探るとき

こうした場面で、

「これは価値を高める変更か?」
「誰の価値を優先しているのか?」
「価値が出るタイミングはいつか?」

と問い直せるかどうか。

この問いを挟むだけで、議論の質と意思決定の納得感は変わります。

一方で、「価値」を見極めてフォーカスしているからこそ、「必要なもの」「必要でないもの」を明確に分類することができ、不要な管理業務、作業をテイラーリングできると思います。

これは、PMBOK(R)P42の「3.4.2 Principle Action」にも以下のように言及しています。

A deeper look might reveal a fast-paced organizational culture that values simplicity of experience over complexity of features. By reducing features and conizations, the more simplified solution might better match the culture, and thus increase overall usage and satisfaction.

(訳)より深く掘り下げてみると、機能の複雑さよりもシンプルなエクスペリエンスを重視する、変化の激しい組織文化が明らかになるかもしれません。機能と円錐化を削減することで、よりシンプルなソリューションが組織文化に適合し、全体的な利用率と満足度が向上する可能性があります。

そういう意味で、「価値を見極め、価値にフォーカスする」ことで、より現場のPMは洗練された判断と行動ができるようになります。

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原則②のまとめ

Focus on Value は、
「価値を測れ」という原則ではありません。「価値を基準に考え続けよ」という原則です。

成果物、進捗、コストなどは、価値を生むための手段にすぎません。

PMBOK第8版は、プロジェクトマネジメントの中心を「管理」から「価値判断」へと移したと言えるでしょう。

原則③ Embed Quality into Processes and Deliverables ― 品質は「最後に確認するもの」ではない

この原則が示していること

Embed Quality into Processes and Deliverables(品質をプロセスと成果物に組み込む)
この原則が強調しているのは、
品質は後工程でチェックするものではなく、最初から織り込むものだという考え方です。

製造業の設計業務の経験のある方は理解されていると思いますが、「品質」は「設計」でき決まり、「品質の要件」は「設計で満たされる」べきです。

これと同じことがプロジェクトマネジメントでも問われていると考えます。

プロジェクトの現場では、品質という言葉が、

  • テスト
  • レビュー
  • 検収

といった「終盤の工程」と結び付けて扱われがちです。

しかし第8版は、「蓋を開けて初めて品質がわかるというのは仕事のやり方が違いますよね?」という説明をしています。

第7版のどの思想を引き継いでいるのか

第7版でも、品質は重要なテーマでした。
特に、

  • Built-in Quality
  • Continuous Improvement
  • Fit for Purpose

といった考え方は、すでに提示されていました。

ただし実務では、
品質はどうしても「要件を満たしているか」「欠陥がないか」といった
成果物の出来栄えに収束しがちでした。

第8版の Embed Quality into Processes and Deliverables は、
品質を成果物の属性としてではなく、
プロジェクト全体の設計思想として位置づけ直しています。

「品質」とは何を指しているのか

ここでいう品質は、単なる不具合の有無ではありません。

  • 目的に適しているか
  • 利用者にとって使いやすいか
  • 継続的に運用できるか
  • 無駄や手戻りを生んでいないか

といった、価値に直結する要素すべてを含みます。

重要なのは、
品質は「守るもの」ではなく、「つくり込むもの」だ
という前提です。

後からチェックで品質を担保しようとすると、

  • 手戻りが増える
  • コストが膨らむ
  • 納期に無理が生じる

といった問題が必ず発生します。

なぜ「プロセス」に品質を埋め込むのか

第8版が「Processes and Deliverables」と、
あえてプロセスに言及しているのは偶然ではありません。

どれほど優れた成果物を目指しても、

  • 要件定義が曖昧
  • 意思決定が遅い
  • コミュニケーションが分断されている

といったプロセスの歪みがあれば、
結果として品質は低下します。

つまり、
成果物の品質は、プロセスの品質の写像なのです。

現場でこの原則をどう使うか

この原則は、PMの日常判断に直結します。

たとえば、

  • 要件が曖昧なまま進めようとしていないか
  • レビューが形骸化していないか
  • 品質基準が共有されているか

といった点を、常に問い直す必要があります。

また、品質を重視するとは、
「完璧を目指すこと」ではありません。

  • どのレベルの品質が、価値にとって適切か
  • どこまで作り込むべきか
  • どこで割り切るべきか

を判断することも、PMの重要な役割です。

Focus on Value との関係

ここで重要なのが、
前章の Focus on Value との関係です。

品質は、価値から切り離して語ることはできません。

  • 過剰品質は、価値を下げる
  • 不足品質は、価値を生まない

だからこそ、

「この品質は、どの価値のために必要なのか」
という問いが、常にセットで求められます。

原則③のまとめ

Embed Quality into Processes and Deliverables は、
「品質をチェックせよ」という原則ではありません。

「品質が自然に生まれるよう、プロジェクトを設計せよ」
という原則です。

品質は、誰かが最後に守るものではなく、
プロジェクト全体で育てていくものです。

次章では、
原則④ Be an Accountable Leader
――なぜ第8版が「リーダーシップ」を原則として明示したのか、
その背景と意味を掘り下げていきます。

承知しました。
以下に 第4の原則「Be an Accountable Leader」 のドラフトを提示します。
これまでの章と同じく、思想 → 第7版との関係 → 現場での意味 → 判断への落とし込みの流れで構成しています。

原則④ Be an Accountable Leader ―「責任を負う人」がいるということ

この原則が示していること

Be an Accountable Leader(責任あるすリーダーであれ)
PMBOK第8版がこの原則を明示的に掲げたことは、非常に象徴的です。

プロジェクトの現場では、

  • 権限はあるが、責任は曖昧
  • 判断は集団で行うが、誰も責任をもとうとしない
  • 問題が起きたとき、「決めたのは誰か」が分からない
  • PMは調整役で決定権がない

といった状況が、決して珍しくありません。

第8版は、こうした状態に対して、「それではプロジェクトは前に進まない」
と、はっきりメッセージを出しています。

第7版のどの思想を引き継いでいるのか

第7版でも、リーダーシップの重要性は繰り返し語られていました。

  • Leadership over management
  • Stewardship
  • Team empowerment

といった考え方は、すでに示されていました。

ただし、第7版ではそれらがPMに期待される資質や態度として語られる場面が多く、原則として明確に打ち出されていたわけではありません。

第8版では、ここを一段引き上げ、「説明責任を引き受けること」そのものを原則として定義しています。

「Accountable」とは何を意味しているのか

ここでいう Accountable は、
単に「責任を取る」「謝る」という意味ではありません。

  • 判断の理由を説明できる
  • 決定の結果を引き受ける
  • 結果と向き合う

という、判断と結果をつなぐ姿勢を指しています。

重要なのは、Accountable ≠ Authoritative(権威的)という点です。

この原則が求めているのは、命令するリーダーでも、すべてを一人で決める人でもありません。

個人的に1点気になるポイントとしては以下のPMBOKの説明です。PMBOK(R)第8版P47の「3.6.1 Project Impact」の1文です。

Accountable leaders focus on delivering value beyond the project work.

(訳)責任あるリーダーは、プロジェクト業務を超えた価値の提供に重点を置きます。

「プロジェクト業務を超えた価値の提供」とう言葉です。はじめは業務時間外も仕事しなさいといいう話かと思いましたが、少し違います。

これは後ろの文に説明のある、プロジェクトの成果物や文章で定義されていない、パフォーマンス、モラル、意思決定、信頼、対応力といった部分に重点を起きなさいというように解釈しました。

なぜ今「Accountable Leader」が必要なのか

現代のプロジェクトは、

  • ステークホルダーが多様化し
  • 専門領域が細分化し
  • 正解が事前に分からない

という前提で進みます。

この環境では、

  • 合意形成に時間がかかる
  • 判断が先送りされる
  • 「みんなで決めた」という空気が責任を薄める

といった問題が起こりやすくなります。

だからこそ第8版は、「誰かが判断を引き受ける必要がある」という点を、原則として明示したのではかいかと解釈しました。

現場でこの原則をどう使うか

Be an Accountable Leader は、
PMに「強くなれ」と言っているわけではありません。

むしろ、

  • 不完全な情報でも判断する
  • その判断を説明する
  • 結果が想定と違っても、修正に向き合う

という、誠実な姿勢を求めています。

たとえば、

  • 意見が割れているとき
  • 誰も決めたがらないとき
  • リスクがある選択肢しか残っていないとき

こうした場面で、「どのような姿勢で望むか?」そこに、この原則の実践があります。

物事を多数決で決めても、責任者不在の不完全な選択しかできません。すべての人の主張を組み上げて、少しずつ妥協した決定では、不完全な案しか出てきません。全体の俯瞰して、最終的な価値を見極めているからこそ「最適解」へ導けるのがプロジェクトマネージャの立場ではないかと読み解きました。

原則④のまとめ

Be an Accountable Leader は、
「リーダーシップを発揮せよ」という抽象的な原則ではありません。

「判断と結果を引き受ける人であれ」
という、極めて実務的な原則です。

この原則が機能していないプロジェクトでは、どれほど優れた計画やプロセスがあっても、意思決定は必ず停滞します。

承知しました。
以下に 原則⑤「Integrate Sustainability Within All Project Areas」 のドラフトを提示します。
これまでと同じトーンで、思想 → 第7版との関係 → 誤解されやすい点 → 現場での使いどころ → 判断への落とし込みの流れで構成しています。

原則⑤ Integrate Sustainability Within All Project Areas―「今だけ」を最適化しない

この原則が示していること

Integrate Sustainability Within All Project Areas(すべてのプロジェクト領域にサステナビリティを統合せよ)
PMBOK第8版でこの原則が掲げられたことに、違和感を覚えた方も多いかもしれません。

「サステナビリティは経営やCSRの話ではないのか」
「プロジェクトって有期性のものなので、そこまで言及できるのか?」

と感じます。

しかし第8版は、サステナビリティは付加的なテーマ”ではなく、判断の前提条件であると解説しています。

第7版のどの思想を引き継いでいるのか

第7版では、サステナビリティという言葉自体は、
今ほど前面には出ていませんでした。

一方で、

  • Value Delivery
  • Stewardship
  • Systems Thinking

といった概念の中には、
長期視点・影響範囲・責任の拡張という思想がすでに含まれていました。

第8版の Integrate Sustainability Within All Project Areas は、
これらを明示的に束ね、「短期最適だけで判断してはならない」というメッセージとして原則化したものだと読み解くことができます。

「サステナビリティ」とは何を指しているのか

ここでいうサステナビリティは、
単に環境負荷やCO₂削減だけを意味しているわけではありません。

  • 組織として持続可能か
  • 人材が疲弊しないか
  • 将来の運用や保守に耐えられるか
  • 社会的な信頼を損なわないか

といった、中長期的な影響全体を含んでいます。

重要なのは、「今うまくいくか」ではなく、「続けられるか」という視点です。

なぜ「All Project Areas」なのか

この原則の特徴は、
All Project Areas(すべてのプロジェクト領域)
と明記されている点にあります。

サステナビリティは、

  • 要件定義だけ
  • 設計だけ
  • 実行フェーズだけ

で考えればよいものではありません。

  • スコープ
  • スケジュール
  • コスト
  • リスク
  • ステークホルダー
  • ガバナンス

すべての判断に横断的に影響する前提条件です。

どこか一箇所で無理をすれば、
別の領域で必ず歪みが生じます。

現場でこの原則をどう使うか

この原則は、理想論で仕事をするというメッセージではありません。

むしろ、PMに次のような問いを突きつけています。

  • この進め方は、チームが持続できるか
  • このコスト削減は、将来の負債にならないか
  • このスケジュールは、無理を前提にしていないか
  • この成果物は、運用フェーズで破綻しないか

たとえば、

  • 無理な短縮スケジュール
  • 属人化を前提とした設計
  • 引き継ぎを考慮しない成果物

これらは一時的には「成功」に見えるかもしれません。
しかし中長期的には、必ずどこかで破綻したり、再現性はない業務になりがちです。

PMBOK第8版は、その歪みを見過ごさない視点を、PMに求めているのです。更にいうと、PM一人だけがこれらを考えていても仕事の方向性は変わりません。PMはプロジェクトメンバーにこの考え方を浸透させて、一人ひとりの業務の中に落とし込んでいくことをしなければなりません。

Focus on Value との関係

原則②で扱った Focus on Value と、この原則は密接に結び付いています。

短期的な成果は出たが、

  • 組織に疲労だけが残った
  • 技術的負債が増えた
  • 信頼を損ねた

のであれば、それは本当に「価値」だったのでしょうか。

持続しない価値は、価値とは呼べない。これが、第8版が暗に示している前提です。

原則⑤のまとめ

Integrate Sustainability Within All Project Areas は、「環境に配慮せよ」というスローガンだけではありません。

本質は「今の判断が、将来にどんな影響を残すのかを考えよ」という、PMにとって極めて現実的な原則と読み取りました。

短期的な最適解を積み重ねた結果、プロジェクトや組織が壊れてしまっては意味がありません。

この考え方が、結果的に個人の進化、組織の進化、顧客との関係性の進化を生み出す考え方と解釈しました。


原則⑥ Build an Empowered Culture ― プロジェクトは「人の振る舞い」で決まる

この原則が示していること

Build an Empowered Culture(力を発揮できる文化を築け)
PMBOK第8版が、6つの原則の最後に「文化」を置いたことは特徴的なことです。

プロジェクトが失敗したとき、その原因はしばしば、

  • 要件が曖昧だった
  • 計画が甘かった
  • スキルが不足していた

と説明されます。

しかし実務を振り返ると、多くの場合、問題はプロセスやツール以前に、人の振る舞いに表れていた
のことはないでしょうか?

  • 意見が出ない
  • 問題が隠される
  • 判断が遅れる
  • 誰も責任を引き受けない

第8版は、こうした状態を「文化の問題」ではないか?として扱っています。

第7版のどの思想を引き継いでいるのか

第7版でも、人やチームに関する思想は多く語られていました。

  • Team
  • Leadership
  • Collaboration
  • Stakeholder Engagement

といった概念です。

ただし第7版では、これらはパフォーマンスドメインや補足的な説明として整理されており、
原則として前面に出ていたわけではありません。

第8版ではこれを一段引き上げ、「文化の考慮をPMの業務・責任範囲に含める」というメッセージであると受け取れます。

「Empowered」とは何を意味しているのか

ここでいう Empowered は、
「自由にやってよい」「放任する」という意味ではありません。

  • 目的が共有されている
  • 判断の前提が分かっている
  • 安心して意見を言える
  • 自分の判断が尊重される

という状態を指しています。

つまり、自律し主体的に判断できる土壌があることが、Empowered Culture の本質です。

逆に言えば、

  • 指示待ち
  • 失敗を恐れる
  • 空気を読む
  • 波風を立てない

といった行動が常態化している場合、どれほど優秀なメンバーが集まっていても、プロジェクトは本来の力を発揮できません。

なぜ「文化」を原則にしたのか

文化は、短期間で作れるものではありません。
だからこそ、

「文化は組織の話であって、プロジェクトでは変えられない」

と思われがちです。

しかし第8版は、
プロジェクトこそが文化を育み醸成すると説明しています。そして、プロジェクトの成功に向けた1つのピースであることを第8版では解説しています。

  • どういう行動が評価されるのか
  • 失敗したとき、何が起きるのか
  • 誰が、どこまで決めてよいのか

これらは、日々のプロジェクト運営の中で、PMの判断や振る舞いを通じて、メンバーに伝わっていきます。メンバーはお互いに協力しながら振る舞いを変えていく。

すなわち、文化は、方針やスローガンではなく、日々の意思決定の積み重ねの中で育まれ、醸成されてくるものです。

現場でこの原則をどう使うか

Build an Empowered Culture は、
PMに「良い雰囲気を作れ」と言っているわけではありません。

むしろ、次のような行動を問いかけています。

  • 判断の背景を説明しているか
  • 意見の違いを歓迎しているか
  • 失敗を学びに変えているか
  • 権限と責任の線引きが明確か

たとえば、

  • 問題を早く報告した人が損をしない
  • 意見を言った人が否定されない
  • 判断を引き受けた人が守られる

こうした経験の積み重ねが、Empowered Culture を形づくっていきます。

ここでもPMには「プロジェクトの価値を最大化させる」ための振る舞いはどのようなものか?という「問い」が課せられます。

原則⑥のまとめ

Build an Empowered Culture は、
PMBOK第8版が提示した6つの原則の締めくくりにふさわしい原則です。

プロジェクトの成果は、計画やツールだけで決まるのではありません。

人が、どのように考え、どのように振る舞えるか。

PMBOK第8版は、その前提条件を「文化」という言葉で、PMの責任範囲に含めました。

はい、その構成はとても良いと思います。
ここまで積み上げてきた内容を考えると、

  • 6原則の個別解説で「思想」を理解させ
  • 「6原則がPMの判断をどう変えるか」で実務に引き戻し
  • 「おわりに」でPMBOK第8版全体の位置づけを言語化する

という流れは、読み手の理解と納得感が最も高まる締め方です。

以下に、
最終章(6原則がPMの判断をどう変えるか)+おわりに
としてそのまま使えるドラフトを提示します。


6原則は、PMの判断をどう変えるのか ―「やり方」ではなく「考え方」が変わる

ここまで、PMBOK第8版で整理された6つの原則を、一つひとつ掘り下げてきました。

改めて強調したいのは、これらの原則は、新しい手法やフレームワークを提示しているわけではない
という点です。

第8版が変えようとしているのは、PMの判断の起点そのものです。

「どう管理するか」から「どう判断するか」へ

従来のプロジェクトマネジメントでは、PMの関心はどうしても、

  • どのプロセスを使うか
  • どのツールで管理するか
  • 計画との差分をどう埋めるか

といった「管理の技術」に向きがちでした。

一方、PMBOK第8版の6原則は、それ以前に、次の問いをPMに投げかけています。

  • 何を全体として捉えるべきか(Holistic View)
  • 何を価値として優先するのか(Focus on Value)
  • どの品質が適切なのか(Quality)
  • 誰が判断を引き受けるのか(Accountable Leadership)
  • その判断は持続可能か(Sustainability)
  • それを実行できる文化があるか(Empowered Culture)

これらはすべて、「どのように管理するか」ではなく、「どう考え、どう決めるか」
に関わる問いです。

6原則は「チェックリスト」ではない

6原則は、守るべきルールや評価項目ではありません。

むしろ、

  • 判断に迷ったとき
  • トレードオフが発生したとき
  • 正解が一つではないとき

に立ち返るための、思考の軸です。

PMBOK第8版は、「この手順を踏めばうまくいく」とは言っていません。

代わりに、「この視点で考えているか?」と問い続けています。

PMという仕事の再定義

6原則を通して浮かび上がるのは、PMという役割の再定義です。

PMは、

  • 計画を守らせる人
  • 調整だけをする人
  • 誰かの判断を取り次ぐ人
  • 顧客に謝る人

ではありません。

PMBOK第8版が描いているPM像は、

  • 全体を見て
  • 価値を基準に考え
  • 判断を引き受け
  • その判断が機能する文化をつくる人

です。

言い換えれば、PMは「判断の質」に責任を持つ存在だと位置づけ直されています。

おわりに ― PMBOK第8版をどう読むか

PMBOK第8版は、
新しいフレームワーク集ではありません。

また、第7版を否定する改訂でもありません。

第8版が行ったのは、プロジェクトマネジメントという仕事を、

「知識体系」から「行動哲学」へ

整理し直すことだったと、私は感じています。

6つの原則は、PMにとっての「正解集」ではなく、問いの集まりであるという印象です。

  • 今、何を見落としていないか
  • その判断は、価値につながっているか
  • その進め方は、持続可能か
  • その文化で、人は力を発揮できるか

PMBOK第8版は、こうした問いを持ち続けることこそが、PMの専門性であると示しています。

もし第8版を読んで、

「具体的な手順が少ない」
「管理方法が書かれていない」

と感じたのであれば、それはおそらく、読み取りとして正しいのだと思います。

第8版は、「どうやるか」を教える前に、「どう考えるか」を問いかけているからです。

この記事が、PMBOK第8版を「手法の本」ではなく「判断の拠り所として読む」きっかけになれば幸いです。

参考書籍

※本稿はプロモーションを含みます。

■ PMBOK®ガイド 第8版 (発行:Project Management Institute)

■ PMBOK®ガイド 第7版 (発行:Project Management Institute)

猫の顔を持つビジネスマン PMBOK8th_6つの原則

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