クリティカルパス法とは何か?

プロジェクト全体を見える化する基本手法

目次

はじめに:なぜ今、クリティカルパス法を学ぶのか

プロジェクトマネジメントにおける「見える化」の原点が、クリティカルパス法(Critical Path Method:CPM)です。1950年代に米国デュポン社が化学プラント建設で開発して以来、建設・製造・プラント・防衛などのエンジニアリング業界を中心に現在でも現役で使われています。

契約条件としてのCPM:公共工事や国際プロジェクトでは、「CPMスケジュールを成果物として提出すること」が契約条件(Contract Deliverable)に明記されるケースがあります。これは発注者・請負者間の納期責任の線引き遅延補償の根拠として機能します。

一方、アジャイル環境ではカンバンやバーン系チャートといったVisual Controlが主流ですが、全体構造を俯瞰してリスクを見極める基盤として、CPMの意義は揺らぎません。

PMBOK第7版ではVisual Controlが強調されつつも、CPMはスケジュール領域の代表的手法として継承されています。PMBOK自体第7版の改編により、手法重視から原則重視に変わりましたので、文書の中での立ち位置が変わったと考えています。

ここでは、クリティカルパス法を振り返り、良さを再認識していこうと思います。

クリティカルパス法とは?

CPMは、プロジェクトを構成する全アクティビティを依存関係で結びどの作業が全体納期を決めるかを明らかにする手法です。

クリティカルパス=プロジェクト最短完了経路(1日でも遅れれば全体納期が遅延する経路)

構成要素

以下の要素で構成されています。

要素意味
アクティビティ(Activity)各作業単位(例:設計、実装、テストなど)
依存関係(Dependency)「Aが終わらないとBが始められない」といった前後関係
所要期間(Duration)各作業に必要な日数または工数
クリティカルパス全体完了を左右する経路(フロート=0)
フロート(Float)遅延しても全体に影響を与えない余裕時間

クリティカルパスを使う目的

全体の構造を見える化する

数百のタスクを「順序」と「ボトルネック」で整理し、経営層や顧客への俯瞰説明に役立ちます。

優先順位とリスクを明確にする

  • 遅らせてはいけない作業の特定
  • 余裕(フロート)があるタスクの認識
  • 限られた人員・資金の重点配分

遅延リスクを数値で把握できる

EVM(Earned Value Management)と組み合わせると、SV(進捗偏差)SPI(進捗効率指数)で進捗を定量化できます。

意思決定への有効性

観点CPMがもたらす効果
可視化力複雑な工程をネットワーク図で直感理解
説明責任根拠ある報告(ガント・ネットワーク)で説得力向上
優先判断守るべき作業(クリティカル)を一目で特定
リスク感度遅延波及の経路を明確化、対策の焦点化
合意形成チーム・顧客・経営の認識を揃える共通図面

※ 実務上は「週次レビュー」「リスク会議」「顧客報告」で特に効果的です。

CPMの限界とVisual Controlとの違い

アジャイル/リーン環境では、カンバンやバーン系チャートなどのVisual Controlが短期・反復管理に適します。CPMを否定するものではなく、別軸の可視化として併用します。

比較項目クリティカルパス法(CPM)カンバン/バーンチャート(Visual Control)
管理対象工程全体(構造)スプリント内タスク(流れ)
時間軸長期(プロジェクト全体)短期(1〜2週間)
更新頻度週次〜マイルストーン毎日/各スプリント
強み全体最適・リスク把握現場最適・即時対応
併用方法CPMで「道筋」を描くカンバンで「歩み」を確認

CPMの作り方(6ステップ)

ステップ内容補足
① アクティビティを洗い出すプロジェクト全体をタスク単位に分解(WBS化)タスク名は「動詞+名詞」で具体化
② 依存関係を定義するFS/SS/FF/SFなどの前後関係を明確化「どの完了が次の開始条件か」を可視化
③ 所要期間を見積もる各アクティビティの日数・工数を設定履歴データ・専門家判断・3点見積もりを活用
④ ネットワーク図を作成するノード(作業)と矢印(依存)で構造化MS Project / Primavera / Smartsheet 等
⑤ クリティカルパスを特定する所要時間が最長となる経路を特定フロート=0の経路がクリティカル
⑥ スケジュール最適化クラッシング(短縮)/ファストトラッキング(並行化)コスト・リスク・品質のバランスで意思決定

※ Excelやガントツールでも簡易CPMは再現可能。「厳密さ」よりも依存関係と余裕の明確化が重要です。

クリティカルパス法でのスケジュール短縮手法

プロジェクトが遅延する可能性が見えた場合、クリティカルパス法ではスケジュール短縮のために以下の2つの手法が代表的に用いられます。これらはPMBOK第6版・第7版でも継続的に紹介されている基本戦略です。

クラッシング(Crashing)

クラッシングとは、クリティカルパス上の作業に対して追加リソースを投入し、作業期間を短縮する手法です。

項目内容
目的追加コストを許容して、最短で納期を前倒しする。
具体例・人員増強(追加要員投入)
・残業・シフト追加
・外部委託による分担作業
メリット・即効性が高く、納期短縮効果が明確に見える
・マネジメント層への報告根拠を提示しやすい
デメリットコストが増加する(特に人件費・外注費) リソース競合が発生しやすい(他プロジェクトとの調整が必要) 過負荷による品質低下・チーム疲弊リスク

ファストトラッキング(Fast Tracking)

ファストトラッキングとは、依存関係のある作業を部分的に重ねて並行実施する手法です。

項目内容
目的順序関係の緩和によって全体の所要期間を短縮する。
具体例・設計完了前に開発の一部を先行着手
・文書レビューと承認プロセスを同時並行で実施
・テスト環境を前倒しで構築
メリット・コストを増やさず期間短縮が可能
・クリティカル経路を直接操作できる
デメリット再作業(リワーク)の発生リスクが高い コミュニケーション負荷が増大 依存関係の誤判断による品質リスク

ハイブリッド戦略:クラッシング+ファストトラッキング

実務では、クラッシングとファストトラッキングを組み合わせて最適化を行うケースが多いです。例えば「先行着手(ファストトラッキング)」で全体を短縮しつつ、特定タスクに「追加人員(クラッシング)」を投入して遅延リスクを吸収する方法です。

ただし、両者を併用するとコスト増とリスク増の両方が顕在化するため、コスト・品質・リスクのトレードオフを明示したうえで意思決定することが不可欠です。

実務的注意点と経験からの考察

  • クラッシング・ファストトラッキングはクリティカル経路上の作業にのみ効果がある。
  • 非クリティカルタスクを短縮しても全体納期には影響しない。
  • 短縮による副作用(品質・コスト・リスク)を定量的にモニタリングする。
  • PMBOK第7版では「スケジュール圧縮(Schedule Compression)」として原則的に継承。

このように、CPMでのスケジュール短縮は明確な効果を持つ一方で、トレードオフを伴う経営判断の領域でもあります。短縮策を講じる際は、コストと品質への影響を定量的に可視化したうえで合意形成を図ることが重要です。

実務経験からの補足:
スケジュールが間に合わなくならないよう、最善の注意と早期兆候の検知が不可欠です。
いったん遅延が発生すると、現実的な選択肢は限られます。
– 人員を補強する(クラッシング的対応)
– 担当者に長時間労働を依頼する(品質リスク増)
– 顧客にスケジュール延伸を打診する(契約リスク増)

特に最後のケースでは、影響範囲が広く関係者も多いため、慎重な交渉と根拠提示が欠かせません。どの選択肢を取るにしても、遅延リスクを認知した時点で迅速に対策案を立案し、関係者へ報告・相談することが最も重要だと考えます。

まとめ:構造を知ることで、判断が変わる

変化が激しい今こそ、まず全体構造を理解してから動くことが差別化になります。アジャイルのカンバン/バーン系が「現場の流れ」を管理するなら、CPMは「プロジェクト全体の道筋」を設計するための地図です。

道を描くのがCPM、進み方を見せるのがVisual Control。どちらもプロジェクト成功の両輪です。

出典・参考文献

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