~有期のプロジェクト、無期の保守運用~
1. プロジェクトとサービスの違いとは?
PMBOKの世界:有期性のあるプロジェクト
「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される、有期性のある業務」
PMBOKにおけるプロジェクトは「終わりがある価値創出の活動」です。
開始と終了が明確で、成果物(Deliverable)の納品をもって完了します。
したがってプロジェクトの目的は「制約の中で成果を出すこと」。
価値の持続は、その後の運用フェーズに委ねられます。
ITIL4の世界:無期的なサービス
ITILは「リリース後に始まる価値の共創」を扱います。
サービスは利用者の業務とともに継続的に変化し、終わりの時点は製品・事業ライフサイクルに依存します。
そのため、「継続性」「改善」「共創」の思考が中心に据えられます。
2. PMBOK第7版「12の原則」とITIL4「7つの原則」
| 観点 | PMBOK第7版:12の原則 | ITIL4:7つの原則 | 
|---|---|---|
| 価値観 | Value(価値を中心に) | Focus on value(価値に焦点を当てる) | 
| 人と関係 | Team/Stakeholders/Leadership | Collaborate and promote visibility(協働と可視化) | 
| 思考法 | Systems Thinking(全体最適) | Think and work holistically(全体的に考える) | 
| 適応性 | Tailoring/Resilience/Change Management | Progress iteratively with feedback(反復的改善) | 
| 品質・改善 | Quality/Risk/Complexity | Keep it simple and practical(シンプルで実用的に) | 
| 責任と倫理 | Stewardship(誠実さと責任) | Optimize and automate(最適化と自動化) | 
| 継続的成長 | Learning/Adaptability | Continual improvement(継続的改善) | 
両者を貫くキーワードは「価値」「協働」「全体最適」「改善」。
PMBOKが“成果をどう作るか”を重視するのに対し、ITILは“価値をどう維持し進化させるか”を問いかけます。
3. 共通点と相違点
共通点:価値志向とシステム思考
- 両者とも「組織の枠を超えて価値を創出する」ことを目的とする
 - システム思考を取り入れ、複雑な関係性を俯瞰して判断する
 - 「顧客との価値共創」「チームの協働」を中心に据える
 

4. 両者をつなぐ思考法:「終わり」から「はじまり」へ
両者の橋渡しには、次のような構造を意識することが重要です。
| フェーズ | PMBOK的視点 | ITIL的視点 | 統合的視点 | 
|---|---|---|---|
| 計画~実行 | 成果物を確実に完成させる | リリースを成功させる | 「価値の起点」を明確にする | 
| 移行~運用 | 成果物を運用に渡す | 継続的改善で価値を維持 | 「終わり」から「はじまり」へのバトン | 
| 改善~再開発 | 終了報告で学びを残す | フィードバックを次回に活かす | 組織学習のサイクルを回す | 
成果物を「渡す」ではなく、価値を「つなぐ」。
これがPMBOKとITILをつなぐ根本思想です。
5. プロジェクトと保守運用が別組織の場合の注意点
プロジェクトと運用チームが分離している場合、引き継ぎは単なる資料受け渡しではなく、価値の継承が本質です。
(1) 成果物の引き継ぎ:何を作ったか
- 設計書・テスト結果・構成管理台帳を最新化
 - テーラリングしたプロセスやツールの仕様も明記
 - 「どう維持するか」の視点で引き継ぐ
 
(2) 問題・課題の引き継ぎ:何が未解決か
- 未完了課題リスト(Issue Log)、既知エラーDB(KEDB)
 - 残存リスクの共有
 - 「知らないこと」が最大のリスクになる
 
(3) 顧客・ユーザー情報の引き継ぎ:誰に価値を提供しているか
- 顧客の期待値・満足度・改善要望
 - 契約条件・SLA
 - ユーザーの業務上の制約と利用傾向
 
(4) ナレッジと文化の引き継ぎ:どう価値を維持するか
- フィードバックループの確立
 - 成功・失敗の学びを共有
 - 改善文化を次のプロジェクトに活かす
 
6. 統合的マネジメントのゴール
PMBOKとITIL4を対立軸で捉えるのではなく、ライフサイクル全体で価値を設計する統合マネジメントへと進化させることが目的です。
PMBOK:成果を生み出す力
ITIL4:価値を育てる力
この両輪がそろうことで、組織は「プロジェクト型組織」から「価値創造型組織」へと進化します。
まとめ:価値を中心に「作る」と「育てる」をつなぐ
- PMBOK第7版は「プロセス」から「原則」へ──行動の哲学へと進化
 - ITIL4は「手順」から「価値共創」へ──継続的学習の体系へと拡張
 - 両者の共通点は「顧客価値を中心に据える」こと
 
システムのライフサイクルに関わるすべての人が、
価値の起点と終点を意識して行動すること。
これが、PMBOKとITILを貫く最も重要な原則です。
参考資料
- PMI『PMBOK® Guide – Seventh Edition』(2021)
 - 翔泳社 『IT Service Management教科書 ITIL 4ファンデーション』(2022)
 - note記事:「PMBOKとITILの原則を比較する~有期のプロジェクト、無期の保守運用~」
 
第7版では「成果志向」から「価値志向」へ。
現場マネージャーに必携の1冊です。
 
 

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