はじめに
本記事は主にIT系の民間企業において、成果物を顧客にデリバリするプロジェクトマネージャ視点を中心のお話になります。
プロジェクトマネージャは多くの業界で活躍するポジションですので、業界、案件によって役割は異なりますので、一つの側面として参考にしていただければと思います。
プロジェクトマネージャ(PM)は、計画や進捗を管理する「調整役」だと思われがちです。しかし、実務の深いところでは、プロジェクトマネージャの存在意義はまったく別の場所にあります。
単なる「調整」「仲裁」「管理」「報告」などの仕事の先にはプロジェクトマネージャの本来の目的があります。
本記事では、プロジェクトマネージャの本質とは何か、そしてなぜ検収が最重要の成果なのかを、経験をもとに整理します。
プロジェクトマネージャの存在意義とは何か
プロジェクトマネージャの役割は、メンバーが作り上げた成果物を顧客が正式に受け取り、価値として認められる状態に導くことです。
どれだけ良い成果物があっても、顧客が検収 (Inspection)・受入 (Acceptance)しなければプロジェクトは完了しません。
プロジェクトにおける価値が「形になる瞬間」は、まさに検収・受入です。
プロジェクトマネージャはただ管理する人ではなく、価値を顧客まで届ける仕組みをつくり、検収まで牽引していく責任を担っています。

検収こそがプロジェクトのゴールである
検収には、成果物の承認・契約の完了・売上の確定という三つの意味があります。
このうち一つでも欠ければ、プロジェクトは事実上完了していません。
- 契約は終わらない
- 売上が計上されない
- 支払いも始まらない
どれだけ努力が積み重なっても、検収が取れなければ価値は発生しないのです。
プロジェクトが完了しないということは、契約上の役割が遂行できていないことと、会社としては売上が計上できないという最重要問題となります。
PMの主要業務は検収まで導くためのプロセスである
PMは多様な業務を担当しますが、そのすべては検収に向けてつながっています。
- スケジュール管理:検収日から逆算して計画を作る
- 品質管理:検収基準を満たすために品質の証跡を整える
- リスク管理:検収を遅らせる要素を早期に取り除く
- 調整業務:顧客の内部承認フローを理解し、滞りなく進める
- コミュニケーション管理:認識のズレをなくし、検収で揉めない状態を作る
つまり、これらの業務は単独ではなく、検収を成功させるためのひとつの体系として存在しています。
顧客が望む価値を実現するのは、成果物を完成させるということに集中しがちです。これは全く間違っていません。しかし、成果物や納期を意識するあまり、検収のプロセスがおろそかになることは避けなければなりません。
検収を意識しないプロジェクトマネージャは判断を誤る
実務の現場では、問題が発生したときにプロジェクトマネージャの本質が試されます。
検収の重要性を理解していないプロジェクトマネージャは、技術的に正しい対応や時間のかかる安全策を優先し、結果的に検収日を守れなくなる判断をする可能性があります。
反対に、検収を理解しているプロジェクトマネージャは判断の軸は検収日が変更となるリスクを考慮します。
「この問題は検収に影響するか?」
この問いを最優先にし、必要に応じて暫定対応で進める選択を取ります。
優先順位を誤らないプロジェクトマネージャは、検収スケジュールを守るためにどこを直し、どこを後回しにするかを切り分けられます。この判断こそが、プロジェクトマネージャの力量を大きく分けるポイントです。
技術チームやサポートチームなどプロジェクトの各関係者は、ます自分たちの業務を最大限のパフォーマンスで問題を解決することに傾けます。このとき、検収日までの含めた広い視野で総合的な判断をできるのは「プロジェクトマネージャ」しかいないのです。
このとき、他の人のチームの人たちと同じように、緊急の作業や連絡、報告が続く中で、冷静に状況を見つめ、解決までのストーリーを構築することが、プロジェクトマネージャとして最も求められる振る舞いとなります。
検収を理解したプロジェクトマネージャができる高度な判断
検収を意識してまとめると、次のような判断が可能になります。
- 問題発生時、“検収への影響”を最優先で評価できる
- 暫定策を組み合わせて工程を止めずに前へ進める可能性を検討できる
- 検収前に直すべき領域と、検収後で良い領域を明確に分けられる
- 追加作業を別契約に切り分けるなど、工数とスケジュールを守るオプションが検討できる
こうした判断は、検収の重要性を理解していなければできないことですし、プロジェクトチームの他のメンバーでできる立場の人はプロジェクトマネージャ以外存在しません。
プロジェクトマネージャと営業の関係性が検収に与える影響
実務では、プロジェクトマネージャだけでなく営業部門との役割分担によっても検収の成功率が大きく変わります。
会社によって営業部門のゴールは異なります。
- 受注がゴールである
- 検収がゴールである
- 入金までがゴールである
営業部門が受注だけで役割を終える会社では、契約条件や検収基準が曖昧なままプロジェクトが開始され、PMが後工程で苦しむ構造になります。
逆に、検収まで営業部門が担当する会社では、顧客との関係性を活かせる一方で、技術的な説明不足や判断軸の違いがトラブルにつながることがあります。
理想は、プロジェクトマネージャと営業部門が「検収」を共通ゴールとして持つ組織です。
役割は異なっても、向かう先が同じであればプロジェクトは強固になります。プロジェクトマネージャは社内調整が得意であり、専門的な説明をプロジェクトメンバー担当者から提供できる。営業部門は顧客のステークホルダーとの調整が得意。
双方の強みを活かして、プロジェクトの成功・検収の成功への道のりを進むことができます。

今日からできる「存在意義を発揮するプロジェクトマネージャ」の行動
プロジェクトマネージャとして存在意義を発揮するために、今日からできる行動は次の通りです。
- 検収基準をプロジェクト開始時に明確化する
- 顧客の内部承認フローを理解する
- 検収日は“具体的な日付”で合意する
- 検収までの工程をWBSに組み込む
- 問題発生時は「検収スケジュールへの影響」を最優先に考える
小さな行動の積み重ねが、検収を守る強いプロジェクトマネージャをつくります。これらのことは、社内も顧客も細かいスケジュールやプロセスを意識していないことが多いため、早くからの確認が後々功を奏します。
まとめ──プロジェクトマネージャとは「検収まで導く力」を提供するプロフェッショナル
プロジェクトマネージャの存在意義は、検収を確実に得ることで価値を成立させることにあります。どれだけ管理をしていても、検収がなければプロジェクトは終わりません。検収を軸に判断する力こそが、プロジェクトマネージャの価値そのものです。
企業は、最終的に利益を求めて活動しています。利益というのは「キャッシュ」です。
経営者や営業から、「契約や発注をキャシュに変えてくる存在=プロジェクトマネージャ」とイメージされると、会社でのプロジェクトマネージャの存在は欠かせないものになります。

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