~価値を中心にした“継続的改善の思考法”~
1. なぜ「7つの原則」が必要なのか?
ITIL4は、従来の手順重視の「プロセス志向」から脱却し、
価値共創(Value Co-creation)という考え方を中心に置いています。
つまり、ITサービスを「提供する側」だけでなく、「利用する側」との関係性の中で価値を作っていく。
その際に、組織や状況が違っても“共通の指針”として活用できるのが、この7つの原則(Guiding Principles)です。
この考え方はITサービスの運用に限らず、生きていく中で知っておくと役に立つ考え方だと思います。
2. ITIL4の従うべき7つの原則(Guiding Principles)
| 番号 | 原則 | 概要 | 
|---|---|---|
| 1 | 価値に着目する(Focus on Value) | サービスの消費者は誰か?価値とは何か?を常に意識する。顧客体験(CX)・ユーザー体験(UX)の観点から行動する。 | 
| 2 | 現状から始める(Start Where You Are) | 現在の仕組みやデータを正確に把握する。ゼロベースで改革する前に、現状を評価し、活かせるものを見極める。 | 
| 3 | フィードバックをもとに反復して進化する(Progress Iteratively with Feedback) | 改善を一度にやろうとせず、小さなステップで反復する。フィードバックを通じて継続的な改善を行う。 | 
| 4 | 協働し、可視性を高める(Collaborate and Promote Visibility) | 関係者間で協働を促進し、透明性を高める。コミュニケーションを可視化し、緊急性と一体感を生む。 | 
| 5 | 包括的に考え、取り組む(Think and Work Holistically) | 組織全体を俯瞰し、システム全体の関係性を理解する。サイロ化(縦割り)を超えて連携する。 | 
| 6 | シンプルにし、実践的にする(Keep It Simple and Practical) | 不要な複雑さを排除し、目的に直結するシンプルな仕組みを選ぶ。完璧さより実用性を重視する。 | 
| 7 | 最適化し、自動化する(Optimize and Automate) | 改善と最適化の流れを設計し、テクノロジーで繰り返し作業を自動化する。人は創造的な仕事に集中する。 | 
3. 7つの原則から見える「価値共創」の構造
これら7つの原則を体系的に見ると、3つの層に整理できます。
| 層 | 原則群 | 目的 | 
|---|---|---|
| 目的層 | ①価値に着目する | 顧客価値の明確化 | 
| 実践層 | ②現状から始める/③反復して進化する/④協働・可視化 | 改善のサイクルを回す | 
| 構造層 | ⑤包括的に考える/⑥シンプルにする/⑦自動化 | 組織としての仕組みを最適化する | 
つまり、ITIL4の原則は単なるチェックリストではなく、
「価値 → 改善 → 仕組み」のサイクルを継続的に回すための設計思想なのです。
4. PMBOKとの違い──プロジェクト vs サービス
PMBOK(プロジェクトマネジメント)が「期限内に成果を出す」ことを目的とするのに対し、
ITIL4は「継続的に価値を提供する」ことを目的とします。
| 比較軸 | PMBOK | ITIL4 | 
|---|---|---|
| 時間軸 | 有期(プロジェクト) | 無期(継続的運用) | 
| 目的 | 成果物の納品 | 価値の維持・成長 | 
| 原則 | 行動哲学(12の原則) | 改善思想(7の原則) | 
| 評価 | 成果の完成度 | 顧客の満足度と価値実現 | 
どちらが優れているという話ではなく、
プロジェクトが生んだ価値を、サービスが育てるという連携こそが重要です。
5. 現場での活かし方
ITIL4の原則は、IT部門だけでなく、
営業、企画、教育、運営などあらゆる分野に応用できます。
たとえば:
- 「価値に着目する」→ ユーザーの目的を理解し、不要な作業を減らす
 - 「反復して進化する」→ 毎週の振り返りで小さな改善を繰り返す
 - 「シンプルにする」→ 無駄な承認フローや複雑なツールを見直す
 - 「自動化する」→ ルーチン作業をAIやRPAで置き換える
 
どの業種でも「人が付加価値を生み出す時間を最大化する」ことがゴールです。
6. まとめ:変化を恐れず、価値を問い続ける
ITIL4の7つの原則は、「不確実な時代に、組織がどう変化に対応するか」を示す羅針盤です。
とくに重要なのは次の3つです。
- 価値に着目する(Value)
 - 小さく進化する(Iterate)
 - 人と協働する(Collaborate)
 
変化のスピードが増す今、完璧を目指すよりも、
「動きながら学ぶ」文化を育てることこそが、持続的な成功の鍵です。
参考資料
- PMI『PMBOK® Guide – Seventh Edition』(2021)
 - プロマネ武蔵:note記事「ITIL4ファンデーションを読む」
 
「ITILって結局なに?」という人はまずここから、という位置づけの本です。
 
 

コメント